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22.わーん、ごめんなさいっ!③

作者: 鷹槻れん
last update 最終更新日: 2025-07-16 00:00:00

 鳥飼《とりかい》さんにそうされた時にはこんなに変な気持ちにはならなかったのに、触れているのが頼綱《よりつな》だと意識した途端、下腹部がキュン、と疼いて落ち着かない気持ちになる。

 と、頼綱が「どんな風になってるか、見せてもらうからね?」って言って。

 え?と思っているうちに絆創膏をペリリと剥がされてしまった。

 少し体液が滲んで患部に絆創膏が癒着してしまっていたのか、その瞬間ピリッとした痛みが走って、思わず「ひゃんっ!」って変な声が漏れた。

「ごめんね、痛かったかな?」

 足をやんわりと撫でられて別の意味で声を上げそうになった私は、慌てて両手で口を塞いだ。

「花々里《かがり》、悪いけど窓の方に手をつくように身体の向きを変えてくれるかね?」

 確かに運転席側から私の足元を見るのは角度が悪いよね。

 いつもなら「もういいでしょ?」と足を引っ込めていたと思う。

 なのに今の私は頼綱にもっと触れられたい、とか思ったりもしていて――。

 求められるまま、素直に身体の向きを変えたら、

「ああ、これは痛そうだね。水膨れが潰れてしまってる」

 私の足に頼綱が顔を近づけているのが、見なくてもそこに吐息がかかることで感じられる。

「んっ、……!」

 押さえていても小さくくぐもった声が漏れて、それが頼綱に聞こえていないことをただただ祈っていたら、存外あっさり足から手を離されて。

 ガチャッとロックが解除される音がして、私は慌てて頼綱を振り返った。

 頼綱は、私のパンプスを手にしたまま運転席側のドアを開けたところで。

「あ、あのっ」

 靴を持っていかれたら私、困ります!

 でも、その呼びかけに応じられることもなくドアが閉められて、私はにわかに不安になった。

 頼綱は純粋に靴擦れの具合いを気にしてくれていたのに、私が変な気持ちになって喘ぐみたいな声を上げたりしたから、呆れ
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  • そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜   22.わーん、ごめんなさいっ!③

     鳥飼《とりかい》さんにそうされた時にはこんなに変な気持ちにはならなかったのに、触れているのが頼綱《よりつな》だと意識した途端、下腹部がキュン、と疼いて落ち着かない気持ちになる。 と、頼綱が「どんな風になってるか、見せてもらうからね?」って言って。 え?と思っているうちに絆創膏をペリリと剥がされてしまった。 少し体液が滲んで患部に絆創膏が癒着してしまっていたのか、その瞬間ピリッとした痛みが走って、思わず「ひゃんっ!」って変な声が漏れた。「ごめんね、痛かったかな?」 足をやんわりと撫でられて別の意味で声を上げそうになった私は、慌てて両手で口を塞いだ。「花々里《かがり》、悪いけど窓の方に手をつくように身体の向きを変えてくれるかね?」 確かに運転席側から私の足元を見るのは角度が悪いよね。 いつもなら「もういいでしょ?」と足を引っ込めていたと思う。 なのに今の私は頼綱にもっと触れられたい、とか思ったりもしていて――。 求められるまま、素直に身体の向きを変えたら、「ああ、これは痛そうだね。水膨れが潰れてしまってる」 私の足に頼綱が顔を近づけているのが、見なくてもそこに吐息がかかることで感じられる。「んっ、……!」 押さえていても小さくくぐもった声が漏れて、それが頼綱に聞こえていないことをただただ祈っていたら、存外あっさり足から手を離されて。 ガチャッとロックが解除される音がして、私は慌てて頼綱を振り返った。 頼綱は、私のパンプスを手にしたまま運転席側のドアを開けたところで。「あ、あのっ」 靴を持っていかれたら私、困ります! でも、その呼びかけに応じられることもなくドアが閉められて、私はにわかに不安になった。 頼綱は純粋に靴擦れの具合いを気にしてくれていたのに、私が変な気持ちになって喘ぐみたいな声を上げたりしたから、呆れ

  • そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜   22.わーん、ごめんなさいっ!②

    病院にいる時よりもオールバックが乱れて顔にかかる割合の増えたほつれ毛が、頼綱《よりつな》の整った顔にそこはかとない色気を添えている。 そんなところまでしっかり見えてしまって、改めてこの人はかっこいいなとか思ってしまう。 おまけに至近距離だから、頼綱が身にまとった柑橘系の爽やかな香水の香りまでもがふわりと漂って……。 間近に顔を寄せた頼綱に、唇を親指の腹でそっとなぞられた途端、ゾクリとした快感が身体を走った。 その感覚に真っ赤になりながら、「とっ、鳥飼《とりかい》さんの車の助手席には乗ってないもん!」と照れ隠しに唇を尖らせたら、頼綱が驚いたように息を飲む。 「……花々里《かがり》、それは本当かい?」 真剣な眼差しでじっと見つめられて、私は懸命にコクコクとうなずいた。 「じゃあ、アイツの車で、花々里は一体どこに座ったの?」 頼綱からの質問に、指差しで助手席後ろの後部シートを指し示しながら、「そこに乗りました!」と訴えて、 「助手席は彼女のためのシートだと思って固辞したの……!」 鳥飼さんに伝えたように、頼綱にも助手席を避けた理由を率直に話したら、途端頼綱が驚いたように瞳を見開いて……。 少し遅れて何故か照れたように視線を揺らしたのが分かった。 「ねぇ、花々里。キミは俺の車じゃ最初から助手席に乗っていたよね?」 熱を持った頬にそっと触れられて、身体に変な力が入る。 「あ、あれは頼綱がっ――」 「俺が?」 ――私のこと娶るとか何とか言ったから! そう続けようとして、でもそう言ったら嫌だ嫌だと言いながらも、そうなることを受け入れていたように思えちゃう?と思いいたって。

  • そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜   22.わーん、ごめんなさいっ!①

    美味しい鰻をたらふく食べて――今日はちゃんとうな重だけじゃなくて櫃《ひつ》まぶしや肝吸いも食べさせてもらいました!――、ほわほわーんとしたほろ酔い気分で帰宅した。 とは言え私は未成年。 もちろんほろ酔いといってもアルコールを摂取したわけではなくて、待ちに待った鰻と、その雰囲気に酔いしれただけ。 私がここまで浮き足立った気分になったのは、何も美味しい鰻をお腹いっぱい食べさせてもらえたから、ばかりじゃなくて。 実際にはそのお店のその一室でした、頼綱《よりつな》とのファーストキスを思い出してしまった、というのが大きいと思う。 こんなこと恥ずかしくて頼綱には言えないけれど、どんなに頭の中で取り消そうと頑張ってみても、鰻を食べた途端、彼との初めての〝キスの味?〟を思い出してしまったんだもん。 結局私のファーストキスは、桃の甘い味と瑞々しい優しい香りなんかじゃなくて……。 ましてや頼綱が「元気な花々里《かがり》にピッタリの明るい色だから」と選んでくれたスマートフォンのカラーみたいな酸っぱくて爽やかなレモンの香りでもないみたい。 頼綱の唇を見て思い出すのは、茶色くてつやつやとした甘辛い濃厚なタレと、鰻のコッテリとした香ばしい……あのヨダレを誘うにおいのほうなの。 そんなあれこれに思いを馳せて、ぷりぷりに肉厚な鰻を食べながらソワソワと頼綱を盗み見たけれど、頼綱はそんなこと全然思い出したりしていないのかな? 私だけ意識しているみたいで恥ずかしくなるくらい、いつも通りに澄ました顔で食事をしていて。 挙げ句の果てには「どうしたんだい、花々里。早く食べないと俺が食べてしまうよ?」とか急かしてきたりする始末。 ねぇ、頼綱。覚えてないの? ここは私と頼綱にとって、初めてデート?した思い出の場所だよ? 頼綱はそんな風には思ってくれていないの?

  • そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜   21.可愛くてたまらない②【side:Yoritsuna Mikimoto】

    だから「あの男には近付くな」とあれほど言い聞かせておいたのに。 うちの〝忠犬〟は食べ物を前にすると途端〝駄犬〟に成り下がる。 そこが手懐けやすくて気に入っているんだが、危険なところでもあって、油断出来ない。 〝美味しいものをあげるよ〟と言われても、〝よく知らない人に付いて行ってはいけません〟というのは、幼な子に対してだけ注意喚起しないといけない事案だと思っていたんだが……どうやら例外も存在するようだということを、俺は花々里《かがり》と再会して嫌というほど思い知らされた。 「……と、鳥飼《とりかい》さんね、私が道端にうずくまったりなんてしてたから……、その、しっ、心配して助けてくれただけなのっ」 俺に追及された花々里が、眉根を寄せてそう言ったとき、「道端?」と聞き返したら慌てたように「け、怪我して、……それでっ」と言い募ってきた。 この感じ。 きっとうずくまっていたことと、怪我とやらは直接関係していないはずだ。 それよりも、むしろ携帯を壊したことと関与している気がする。 だけど、同時にパッと見どこも何ともなさそうな花々里の怪我というのも物凄く気になって。 ――まさか服で覆われて見えない場所をあの男に見せたとか言うんじゃないだろうね? そんなことを思って「どこに?」と低い声音で詰め寄ったら、一瞬怯えた顔をした花々里が、申し訳なさそうにかかとの辺りを指さすんだ。 「ごめんなさい。大袈裟に言いました。……た、ただの靴擦れ……です……」 言われてみれば花々里の華奢な足に、両方とも絆創膏が貼られていて。 正直即座に彼女の患部からそれを引っ剥がしたい衝動に駆られた俺だったけれど、それをやったら花々里がまた痛い思いをしながら歩かなくちゃいけなくなると思って、何とか踏みとどまったんだ。 キミの足を見て、そんなことを考えたなんて赤裸々にぶつけたら、花々里は呆れるだろうか。 だけどね、大事にしている女の肌に他の男が触れたと思

  • そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜   21.可愛くてたまらない①【side:Yoritsuna Mikimoto】

    鳥飼《とりかい》の携帯から花々里《かがり》を名乗るメッセージが届いたとき、俺は何かの間違いだろうか?と思ったんだ。 でも、半信半疑でロビーに出向いてみたら、メッセージの内容そのままにあの子がそこにいて。 本当は大学はどうしたんだい?とか、何故鳥飼と?とか……言いたいことは山ほどあったんだ。 けれど花々里の顔を見た途端、全てがどうでもいいことのように吹き飛んでしまった。 そのぐらい、花々里がわざわざ俺に会いに来てくれたこと、また何時間も待ち続けてくれていたことがグッと心に響いて。 一切合切を不問にふして、俺は思わず「昼は食べたかい?」と問い掛けていた。 俺にとっては昼食の時間が14時を過ぎたりなんてことはざらだけれど、食いしん坊な花々里をそれに付き合わせてしまったかもと思ったら、にわかに不安になったんだ。 だけど幸いあの子の優秀なお腹の虫は宿主にそんな我慢をさせなかったらしい。 花々里がフルフルと首を横に振りながら、昼食は先に済ませたと言った時、俺は心底ホッとしたんだ。 なのに当の花々里は何故かそのことをすごく申し訳なく思っているようで。 別に気にする必要なんてないと言おうとしたら、「マテができませんでした」とか続けてくるから、思わずどこの忠犬だ!と笑いそうになった。 そうして同時に、花々里のことが心底可愛くてたまらないと思ったんだ。 あの食いしん坊の花々里が、俺相手にそんなことを思うようになってくれたとか。 ――ねえ、花々里。少しは脈があると思っても構わないのかな? この調子で、とびきり花々里を甘やかして、もっともっと俺になついてもらわねばね、と思ったんだが……そのあと連れて行った食堂で、何故か花々里は紅茶しか頼んでくれなくて。 先に昼飯を食べてしまったことをそんなに気にしているんだろうか

  • そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜   20.解除の仕方が分かりません!④

    しかも、「ちょっと待って、頼綱《よりつな》」がまともに言えなくて、オマケに顔がぶわりと熱を持ったのも分かって。「まぁ! 先程から仲睦まじいお似合いのおふたりだなって思っていましたが、ご婚約を! おめでとうございます!」「有難うございます。実は色々ありまして指輪がまだなんですが、それもすぐにと思っています」 だから契約者名を未来のご主人に、とか何とか……。 ひとりパニックでオロオロする私を置き去りに、店員さんと頼綱がふたりで勝手に盛り上がってしまう。 「あ、あのっ」 必死で携帯を持つ手をブンブン振り回しながら何とか口を挟もうとしたら、頼綱にスマートフォンをスッと取り上げられてしまった。 一瞬手からすっぽ抜けて飛んでいったのかとドキッとした私は、頼綱が私のスマートフォンを手にしているのを見てホッと安堵する。 先のガラケーみたいに放り投げられては敵わないと思われたのかな? そう思って申し訳なさげに眉根を寄せて頼綱を見つめたら、何故かニコッと微笑まれて。 「あの、大変申し訳ないのですが、お祝いついでにこれで俺たちを撮ってもらえませんか?」 ――記念に壁紙にしたいので。 にっこり笑って無駄に低温な美声でそう付け加えると、頼綱が一緒に決めた0303――頼綱の誕生日、ひな祭りだった!――でロックを解除して、私のスマホをお姉さんに差し出した。 店員さんは頼綱の色香に当てられたように一瞬瞠目すると、それでもさすが接客のプロ。 すぐにハッとして、気持ちを切り替えるように「……喜んで!」とおっしゃった。 でも、その頬が少し紅潮しているのを、私は見逃さない。 そのことに、何だかモヤリとした後で、ふたりのやり取りの意味にやっと気がついて。「えっ?」 思わずそうつぶやいたのと、頼綱

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